食べることの好きなM夫妻はまたそろって調理好きでもある。とくにMさんの中華風家庭料理の味は自負するところであるらしいし、それは竣工祝いのホームーパーティで手料理を御馳走になった私の経験からも推奨できる。調理に対する執着は、設計の打ち合わせのために最初に旧居を訪問したときの印象からも明らかだった。当時のM家はこぢんまりと平凡なつくりで、厨房も狭かったが、そこに鉄製で重たそうな大中小の柄つき中華鍋が重なり、流しの下には醤油だけでも4種類、さらには、ナンプラーなどエスニックな調味料が一升瓶入りで林立していたのだった。
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中華料理は強火で短時間に仕上げるのがコツだから当然、ハイカロリー・バーナーがいる。これも最初からの強い要望だった。こういう本格的な調理設備は、炎が高く上がり、調理熱や調理臭も強いから、普通は食事の場と分離した厨房に設置されるものだ。しかしM夫妻はそういう常識よりも「つくってすぐアツアツを食べる」ことを大切にし、調理の場と食事の場を1つの部屋にしたいと希望した。私は正論で若干抵抗したのだが「暑くてニンニク臭いとこで、汗かきながら食ったっていいですよ。安くてうまい店はたいていそんなもんでしょ」というMさんの言葉で決まり。それが見事に住みこなされた結果には、常識とは常に例外を伴うものであることをいまさらながら教えられた(この要望への建築家的対応として、バーナーの上に強力な換気扇を取り付けた上、食卓のほうへ流れる熱と調理臭は高い天井と切妻型の垂れ壁の換気口から抜くようにした)。
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